脳神経には、１２対の神経があります。三叉神経はその中の第Ⅴ脳神経で、脳神経の中では最大の神経です。
『三叉』とは三叉神経が３つの神経に分かれていることが由来で、眼神経・上顎神経・下顎神経に分かれています。３つの神経には知覚性の神経線維が含まれています。三叉神経は顔面部の感覚を支配しています。さらに下顎神経には、体性運動神経があり咀嚼筋や顎二腹筋の運動を支配しています。そのため、顎関節症と密接な関係にあります。
顔面の麻痺場合には、表情筋への運動神経の麻痺で顔面神経麻痺によって発症し三叉神経の関与はありません。
●眼神経（V１)
三叉神経の一番上の枝が第１枝『眼神経』です。三叉神経痛の中では最も発生頻度が低いと言われているのが、この三叉神経第１枝の領域です。眼神経は感覚神経で頭蓋の上眼窩裂から外に出て、眼窩内、眉、前頭部、鼻腔の感覚を司り、神経痛は支配領域である目の奥に痛みを感じる方が多く、次いで額の痛みです。
眼神経の三叉神経痛は、第３枝の下顎神経の三叉神経痛と合併して発症することはありません。眼神経による三叉神経痛は、眼精疲労による目の痛みと勘違いされることがあります。痛みの質、持続時間、発生頻度や時間帯などを正確に把握することで正確な判断が可能となります。
支配領域：上眼瞼、硬膜、角膜、眼球、前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞、顔面上部の皮膚感覚
神経の分岐 ・主知覚核、脊髄路核（三叉神経節）→眼神経→前頭神経→滑車上神経→眼窩上神経
●上顎神経（V２）
三叉神経の上から2番目の枝が第２枝『上顎神経』です。2番目に三叉神経痛が起こりやすいと言われているのが、この三叉神経第２枝の範囲です。上顎神経は感覚神経で、頭蓋の蝶形骨正円孔（鼻の横）から外に出て目の下縁から、上唇、頬、上の歯、口腔内の上部の感覚を司っています。
上顎神経が原因の三叉神経痛の場合には、鼻の横辺りを押さえると三叉神経に沿って痛みが現れます。上顎神経単独の三叉神経痛だけではなく、第３枝の下顎神経の三叉神経痛と合併して発症することも多くあります。
上顎神経痛の痛みのパターンは、三叉神経痛特有の鋭い短時間の痛み以外にチクチクする、ピリッと一瞬電気が走る感じなどと表現されることが多くあります。痛みの範囲は上の奥歯の痛みや頬、また鼻に沿って上下に痛みを感じるなど様々です。
歯科を受診する際には、痛みが誘発されるタイミングや痛みの質などを正確に把握し伝えるようにすることで歯の問題なのか三叉神経痛なのかの分類に役立ちます。
支配領域：下眼瞼、硬口蓋、鼻腔後部、上歯、顔面中部（頬部分）の感覚
神経の分岐 ・主知覚核、脊髄路核（三叉神経節）→上顎神経→中硬膜枝→頬骨神経→眼窩下神経→前、中上歯槽神経→後歯槽神経→翼口蓋神経節→大、小口蓋神経
●下顎神経（V３）
三叉神経の一番下の枝が第３枝『下顎神経』です。三叉神経痛が一番起こりやすいと言われているのが、この三叉神経第３枝の範囲です。下顎神経は、頭蓋から外に出た後下顎の歯、下顎、下唇、頬、オトガイ、頬粘膜、舌の前2/3の感覚を司っています。それ以外に、三叉神経で唯一運動神経線維を含んでおり、咀嚼筋の運動を支配しています。
そのため、顎関節症などによって咀嚼筋に問題が生じた際には下顎神経の圧迫が起こり、結果として三叉神経痛を引き起こすのではないかと考えられています。
長時間の会話や大きな声を強いられる講演、歌や咀嚼を行った際に三叉神経痛が引き起こされるような場合は、咀嚼運動によって咀嚼筋が動きその結果として咀嚼筋の下を走行する下顎神経の枝を圧迫し、下顎神経領域に痛みが現れることがあります。このような場合には咀嚼筋が三叉神経を圧迫している可能性が高いと考えられます。
三叉神経痛特有の鋭い短時間の痛み以外に鈍い痛みや筋肉痛のような痛みをエラ部分（下顎角）付近に感じることもあります。下顎神経が障害されたときには、神経痛の範囲として下顎周辺（エラ付近）に痛みが現れます。
感覚支配領域：下歯、顔面下部の皮膚の感覚、舌前２/3の感覚
運動支配領域：咀嚼筋や顎二腹筋前腹の運動（咀嚼運動に関与）
神経の分岐 ・主知覚核、脊髄路核（三叉神経節）→下顎神経（側頭下窩）→硬膜枝→咀嚼筋枝→頬神経→耳介側頭神経→舌神経→下歯槽神経→オトガイ神経
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